過敏性腸症候群
Scroll過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、食道や胃、大腸などの消化管に明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴う便通異常を特徴とする機能性胃腸障害です。このIBSは日本人の有病率が11%とされており、10人に1人はIBSがあると言われています。男女別では女性にやや多い傾向があり、年齢別では40歳以下に多く、年齢とともに有病率は低下する傾向があります。
過敏性腸症候群(IBS)の症状について
IBSの主な症状は腹部症状と排便異常になります。
・腹痛または腹部不快感:特に排便後に軽減することが多いです。
・便通の変化:下痢、便秘、またはその両方が交互に現れることがあります。
・ガスや膨満感:お腹が張る感じやガスが溜まる感じがします。
過敏性腸症候群(IBS)の警告症状について
IBSを疑う場合でも、以下のような警告(アラート)症状がある場合は、大腸がんなどの疾患が背景にある可能性があり、消化器病専門医で精査を行うことが推奨されます。発熱や関節痛、血便や下血、6ヶ月以内の予期せぬ体重減少(3kg以上)、異常な身体所見(腹部腫瘤の知覚、腹部の波動)などが警告症状に分類されます。
また50歳以上での発症や、大腸がんの既往がある、または家族歴がある場合にも大腸内視鏡での精査が望まれます。
過敏性腸症候群(IBS)のタイプ
IBSは便通のパターンに基づいていくつかのタイプに分類されます
下痢型:主に下痢が見られます。
便秘型:主に便秘が見られます。
混合型:下痢と便秘が交互に現れます。
分類不能型(IBS-U):上記のどれにも明確に分類されないもの。
過敏性腸症候群(IBS)の原因
IBSの正確な原因は不明ですが、以下の要因が関与していると考えられています。
腸の運動機能の異常:腸の蠕動運動の異常が原因で便通が乱れることがあります。
腸内細菌の変化:腸内フローラのバランスが崩れることが関与している場合があります。
食事とライフスタイル:特定の食品やストレスが症状を悪化させることがあります。
脳-腸相互作用の異常:脳と腸のコミュニケーションの問題が関係していることがあります。(腸脳相関)
過敏性腸症候群(IBS)の原因の一つ:腸脳相関とは?
緊張する局面で腹痛を自覚し、トイレに駆け込み下痢になる。このような経験はありませんか。腸脳相関はこの局面のように腸と脳が密接に関連し合っていることを示し、互いの状態に影響を与えるという考え方です。 腸脳相関は、消化器疾患や精神疾患において重要な役割を果たします。例えば、過敏性腸症候群(IBS)の他にはうつ病、不安障害などが腸脳相関の不調に関連していることが示されています。腸の健康状態が脳の機能や気分に影響を与える一方、ストレスや精神的な要因が腸の状態に影響を与えることもあります。
過敏性腸症候群の診断に必要な検査
過敏性腸症候群と診断するには大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)ではないことを精査する必要があります。そのためには腹部超音波や大腸内視鏡(大腸カメラ)が行われます。
過敏性腸症候群(IBS)の診断
IBSの診断には、大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)など他の疾患を除外するための胃カメラや大腸カメラ、腹部超音波などの検査が行われます。具体的な診断基準には以下が含まれます。
Rome(ローマ)Ⅳ診断基準
①6月以上前から繰り返す腹痛がある
② 直近3ヶ月のなかの1週間につき少なくとも1日以上を腹痛がある
③ 下記の2項目以上の特徴を示す
・排便に関連する
・排便頻度の変化に関連する
・便形状(外観)の変化に関連する
過敏性腸症候群(IBS)の治療
IBSの治療は段階的に進めていきますが、まず食事と生活習慣の改善が第一歩になります。その次に薬物治療の適応になります。そして薬物治療でも症状の改善が難しい場合は認知行動療法などの専門的心理療法の適応が必要になる場合があります。
食事・生活習慣の改善
過敏性腸症候群(IBS)はストレスを溜めないことが大切です。そのための規則正しい生活や十分な睡眠時間の確保は重要な対策になります。そして食事に関しても脂っこい食事や炭水化物の多い甘い物、香辛料、アルコールやカフェイン(コーヒー)は症状を悪化させる可能性があり避けることが望まれます。
薬物治療
ポリカルボフィルカルシウム(商品名 コロネル)
高分子重合体ポリカルボフィルカルシウムは非溶解性の合成ポリマーで、腸内の水分を吸収し、膨張することで便の体積を増やします。これにより、腸の蠕動運動(腸の動き)を促進し、便通を改善します。下痢及び便秘ともに効果を発揮し、消化管内水分保持作用及び消化管内容物輸送調節作用により効果を発現すると考えられています。
トリメブチンマレイン酸塩(商品名 セレキノン)
腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘などの症状を緩和する薬です。腸管の平滑筋(腸を動かす筋肉)に作用して腸の運動を調整します。具体的には、腸の過剰な収縮を抑えると同時に、腸の運動を正常化することで、便秘や下痢を改善します。これは、腸の神経系に作用して腸の運動を調整するためです。
セロトニン受容体拮抗薬(商品名 イリボー)
下痢型の過敏性腸症候群(IBS)の患者さんの症状の改善が期待できます。イリボーの有効成分は、ラモセトロンです。ラモセトロンはセロトニンの作用を抑制することで腸管の運動を調整し、過敏性腸症候群に伴う腹痛や下痢を軽減します。当初は男性のみが適応でしたが、その後女性患者にも有効性が証明されました。
プロバイオティクス
プロバイオティクスは、腸内に有益な微生物を供給することで、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを改善します。IBS患者さんは、腸内フローラのバランスが乱れていることが多く、その調整が症状緩和に寄与する可能性があります。また免疫系の調整に関与し、炎症を抑制する効果があります。さらに腸管のバリア機能の強化や消化酵素の分泌の促進作用も期待できます。
過敏性腸症候群が考えられる症状があったら消化器内科を受診してください
緊張する局面やストレスの環境での下痢や腹痛などの症状は過敏性腸症候群の典型的な症状ですが、その診断には腹部超音波や大腸カメラなど専門的な検査が必要です。当院では迅速に対応可能ですので、不明な点があれば何でもご相談ください。