便潜血検査:検査の意義と陽性になった場合の対応について

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便潜血検査について

便潜血検査は大腸がん検診のスクリーニング検査であり日本では広く実施されております。スクリーニングとは、大量のものを検査して、条件に合うものを選び出す行為のことです。つまり大腸がんスクリーニングとは対象集団(市町村の住人や職場の健康保険の被保険者)の中から大腸がんの可能性のある人を選び出すことになります。便潜血検査はそのスクリーニング検査であり、便の中に含まれる微量のヘモグロビン(血液の成分)を同定することで、大腸がんの可能性のある人を同定しています。

便潜血検査を受ける意義

便潜血検査は長い歴史のある大腸がん検診の検査であり、大腸がん死亡率と罹患率を低下させる明らかなエビデンスがあります(1)。東広島市では40歳以上の方を対象に、すこやか健診の項目の一つとして含まれております。
専門的な話になりますが、2019年のBritish Medical Journal (BMJ)のガイドラインでは15年以内の罹患率(これから15年以内に大腸がんと診断される確率)が3%以内の集団(住民や職場検診対象者)でなければ大腸がん検診を実施することに”弱く反対”すると発表しております(2)。3%を超える場合は”弱く推奨”としました。つまり大腸がんに15年以内になる確率が3%以下である対象集団では大腸がん検診は強く勧めらないという意味です。

現在の日本の状況では60歳代(特に男性)から15年以内の大腸がん罹患率が3%を超えてきます。このガイドラインからも特に60歳代以上の方は大腸がんのリスクが高いため積極的に便潜血検査を受けることが推奨されます。また便潜血検査は安全で全く侵襲がない検査であるため、一般的な大腸がん検診の対象である40歳以上の方は是非受けていただけたらと思います。

便潜血検査でどのくらい大腸がんが見つかっているか?

検査の精度としては日本対がん協会の2017年度の調査によると大腸がん検診で便潜血検査を10,000人が受けたとすると、陽性と判定される人(要精密検査)は607人、その後精密検査を受けた人は417人、そして最終的に大腸がんと診断された人は17人と報告されております。便潜血検査で陽性の方で実際に大腸がんが見つかる方は約2-3%で、便潜血検査自体はあくまで大腸内視鏡検査を受けていただくきっかけの要素が強い検査です(3)。

便潜血検査について:化学法と免疫法

便潜血検査は便中のヘモグロビンを同定する方法です。そのヘモグロビンを同定する方法として化学法と免疫法の2つの検査法があります。以前の主流は化学法でしたが、上部消化管出血(胃の出血)や食べた肉や魚料理の血液、鉄剤、緑黄色野菜などでも陽性になるため検査前の食事制限や偽陽性が問題となりました。そこで現在はその欠点を補った免疫法が主流になっています。免疫法はヒトヘモグロビンに対する抗体を用いる検査のため肉や魚の血液や胃酸で変性したヘモグロビンにも反応しません。そのため化学法より高い精度で大腸からの出血を同定できるようになりました。

便潜血検査について:1日法と2日法

便の検体を1回だけ採取するか、2回採取するかの違いです。基本的に現在の大腸がん検診では2日法が採用されております。なぜ2回採取が必要なのかというと、大腸がんがあっても毎回便に血液が付着するわけではないからです。このことから便潜血検査は統計学的に感度が低いと表現し、便潜血検査が陰性であっても大腸がんが否定できるものではありません。そのため少しでも多くのタイミングで便を採取することで、大腸がんを発見する精度を高める狙いがあります。1日分(1回法)の便潜血検査で大腸がんを指摘できる可能性は56%、2〜3回採便することで80%以上と言われています(4)。

便潜血検査の方法と検体保存方法

便の検体を採取する方法に関しては下記のサイトで詳しく紹介されております(5)。

詳しくはこちら https://www.toholab.co.jp/info/archive/15662/

便潜血検査は2回検体を採取する必要があり、検体を保存する必要があります。保存は基本的に冷蔵暗所保存です。なぜ冷暗保存が必要なのかというと、便検体容器には糞便中のヘモグロビンを安定に保つための緩衝液が入っており、冷蔵保存(4℃)が最もヘモグロビンを安定させる温度になっているためです(6)。最長で2週間は検体が安定し、安定したヘモグロビンの検出が可能になります。

便潜血検査の陽性判定とは?

近年では、便潜血検査は免疫法が実施されている施設がほとんどであり、基本的に定量的(+/-ではなく数値結果)に結果が得られます。当院では便中ヘモグロビン定量[ラテックス法]で100 ng/mL未満が陰性と判定されます。合計2回の検査のうち、1回でも陽性と判定されたら便潜血検査陽性と判定します。

便潜血検査で1回だけ陽性の場合

一部には便潜血検査が2回のうち1回だけしか陽性にならなかった場合に、さらにもう1回便潜血検査を実施し、陰性であったら問題ないとする施設があります。しかしこれは間違った運用です。上記でも記載しましたが、便潜血”陰性”の結果には意味はありません。なぜなら仮に大腸がんが存在していても、常に出血しているわけではないからです。たまたま出血がないタイミングで便検体を採取することも考えられます。便潜血検査で大切なのは1回でも便潜血検査が陽性であれば、便潜血検査の再検ではなく精密検査の大腸内視鏡検査を受けることが必要です。

便潜血検査が陽性で大腸内視鏡検査を受けないリスクは?

便潜血検査が1回でも陽性であった場合は大腸内視鏡で精密検査を受けることが強く推奨されます。便潜血検査はその後の陽性精密検査の大腸内視鏡検査まで含めて一つのがん検診検査です。そのため陽性で放置することは不完全の検査となります。さらに便潜血検査が陽性であった人で大腸内視鏡を受けた方と受けなかった方で比較したら約2倍の大腸がん死亡リスクがあることが報告されています(7,8)。便潜血陽性の方は積極的に大腸内視鏡検査を受けて下さい。

便潜血検査で診断される疾患

大腸がん

便潜血検査で陽性の方で実際に大腸がんが見つかる方は2-3%程度と言われています。基本的に出血をきたす大腸がんは進行大腸がんであり、早期大腸がんが見つかった場合は出血とは関係なく偶発的な発見である可能性が高いです。

詳しくはこちら

大腸ポリープ

大腸内視鏡の質の評価としてAdenoma detection rate (ADR) があります。これは大腸がんの原因となる腺腫が見つかる割合です。通常の内視鏡では20%のADRが内視鏡医に求められますが、便潜血検査で陽性の方の場合はそれより高い30-40%のADRが望ましいと言われています。

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潰瘍性大腸炎

慢性的に大腸に炎症を起こす、炎症性腸疾患の一つが潰瘍性大腸炎です。基本的に便通異常や慢性的な腹痛、血便の症状がありますが、まれに無症状で指摘される軽症の大腸炎もあります。潰瘍性大腸炎を疑う粘膜所見を認めた場合は、消化器内科専門医の受診が必要です。

痔核を認める外痔核、内痔核や、切れ痔も便潜血検査陽性の原因となりますが、基本的に痔以外に大腸粘膜に異常がない場合に痔による出血を疑います。そのため、便潜血陽性の原因を痔と簡単に結論づけるのではなく、しっかり他の原因を詮索することが大切です。

メッセージ

便潜血検査が”1回でも”陽性であったら放置せず、消化器内科専門医を受診して下さい。特に、今まで大腸内視鏡を受けていない場合は是非大腸内視鏡を受けて下さい。大腸がんが診断できるだけでなく、大腸ポリープを切除すれば将来の大腸がんが防げる可能性が高いです。不明な点はなんでもご相談ください。

参考文献

(1) Mandel JS, Bond JH, Church TR, et al. Reducing mortality from colorectal cancer by screening for fecal occult blood. Minnesota Colon Cancer Control Study. N Engl J Med 1993;328:1365-71.
(2) Helsingen LM, Vandvik PO, Jodal HC, Agoritsas T, Lytvyn L, Anderson JC, et al. Colorectal cancer screening with faecal immunochemical testing, sigmoidoscopy or colonoscopy: a clinical practice guideline. BMJ (Clinical research ed). 2019;367:l5515.
(3) 日本対がん協会HPより引用;https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/
(4) Nakama H, Yamamoto M, Kamijo N, et al. Colonoscopic evaluation of immunochemical fecal occult blood test for detection of colorectal neoplasia. Hepatogastroenterology 1999;46:228-31.
(5) https://www.toholab.co.jp/info/archive/15662/
(6) http://www.labo.city.hiroshima.med.or.jp/qanda/1396.html
(7) Zorzi M et al. Non-compliance with colonoscopy after a positive faecal immunochemical test doubles the risk of dying from colorectal cancer. Gut 2022;71:561-567.
(8) Zhu Y et al. Nonadherence to Referral Colonoscopy After Positive Fecal Immunochemical Test Results Increases the Risk of Distal Colorectal Cancer Mortality. Gastroenterology. 2023;165(6):1558-60.e4.
(9) UpToDate: Tests for screening for colorectal cancer

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