腹痛
Scroll腹痛について

腹痛は最も一般的な症状であり、そして原因も多岐にわたります。消化器内科の専門医として腹痛の方の診察は腕が鳴ります。そして当院では胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡診療も可能であり、診断の精確性も上がります。皆さんの一般的な症状である腹痛について解説したいと思います。
受診した方がよい腹痛とは
腹痛は自然に良くなる場合が多いですが、以下の所見のある腹痛は医療機関を受診することが推奨されます。
- 歩くとお腹に響く腹痛 (腹膜炎の可能性)
- “エビ”の様にお腹を丸めると楽になる腹痛 (急性膵炎の可能性)
- みぞおち付近(上腹部)をゾウに踏まれる様な圧迫性の腹痛 (心筋梗塞の可能性)
- 嘔吐が止まらない腹痛 (腸閉塞)
- 冷汗を伴う腹痛
- 徐々に増悪していく腹痛
- 突然発症した腹痛
腹痛の緊急性・重症度
腹痛を含めて症状には大切な二つの要素があります。”緊急性”と”重症度”です。緊急性とはすぐに医療処置(外科的手術や心臓カテーテル検査など)が必要かどうか、重症度はその症状の原因疾患の重さのレベルを言います。例えば大腸がんは重症度は高い疾患ですが、腸が閉塞しない限りは緊急性はないことになります。まず腹痛の患者さんがいた場合、緊急性があるかどうかを考えます。緊急性が高いと考えられる腹痛の特徴は以下の項目が挙げられます。
緊急性の高いサイン
- 血圧低下などのバイタルサインが不安定
- 板状硬(腹膜炎の所見)腹部が板のように硬くなる
- 反跳痛(腹膜炎の所見)お腹から手を離した時に”ビクッ”とする位痛む
- ゾウに心窩部(みぞおち)を踏まれたような圧迫感のある腹痛(心筋梗塞の可能性)
- 発熱を伴う腹痛(胆管炎や胆嚢炎など)
- 血を吐いたり、血便を伴う腹痛(出血性胃潰瘍など)
これらは典型的な”緊急性”のある症状です。専門医は情報を収集し、すぐに対応が必要な緊急性の高い疾患が隠れていないかを最初に考えます。
腹痛の部位について
腹痛の部位によって、考えられる疾患も変わってきます。以下の図は腹部の部位を分類し、それぞれの部位の典型的な腹痛の原因を示しています。

①心窩部痛
みぞおちの痛みで第一に考えないといけない疾患は心疾患です。特に心筋梗塞に代表される虚血性心疾患は圧迫されるような痛みが特徴です。その他の原因としては逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変(AGML)、胃アニサキス症、総胆管結石症、急性膵炎などが挙げられます。
②右上腹部(右季肋部)痛
胆嚢炎や胆嚢結石症などは、食後1~2時間程度で発症する痛みが特徴的です。その他肝臓からの痛み(急性肝炎、肝膿瘍、Fits-Hugh-Curtis症候群)などが鑑別になります。
③左上腹部(左季肋部)痛
急性膵炎や脾臓梗塞などが鑑別になります。また血便を伴う場合は虚血性腸炎も鑑別になります。
④側腹部痛(右/左)
側腹部から背部にかけての痛みは尿路結石や腎梗塞など泌尿器科系の痛みの可能性があります。
⑤右下腹部痛
特時間の経過とともに心窩部痛から右下腹部に移動する痛みは急性虫垂炎(通称 盲腸)の可能性があります。また大腸憩室炎や感染性腸炎、その他の大腸炎もこの領域に好発します。また卵巣疾患や妊娠合併症(異所性妊娠)など婦人科系疾患も下腹部痛全般の症状になります。
⑥下腹部痛
女性であればまず婦人科系疾患の可能性があります。子宮内膜症、月経痛、卵巣出血や付属器炎などが挙げられます。また排尿との関連性のある痛みでは膀胱炎を考えます。
⑦左下腹部痛
S状結腸には大腸憩室が多発する傾向があるため、大腸憩室炎の好発部位になります。また虚血性腸炎や潰瘍性大腸炎などの大腸の遠位部の大腸炎の症状も鑑別として挙げられます。
⑧臍部痛
腹部の正中である臍の部分の痛みは多彩な原因が挙げられます。急性膵炎や腸閉塞、急性腸炎、過敏性腸症候群などが鑑別となります。
腹痛の典型的な症状と診断( Snap diagnosis)
- 「〜していたらいきなり」「〜している瞬間に」など急激に腹痛が出現した際は、”詰まった”、”破れた”、”破裂した”など緊急性のある病態によく認める所見です
- 痛みが良くなったり悪くなったり増悪と寛解を繰り返すパターンの痛みは腸管由来の痛みが多いと言われています。特に下痢を認め、排便後に軽快する場合は典型的な腸炎症状になります。
- 左側腹部から下腹部の腹痛があり、その後鮮血の血便が出る場合は虚血性腸炎を疑う病歴になります。
- 寿司や刺身などの新鮮な生魚を食べた後数時間〜半日くらいで発症する痛みはアニサキスを疑う病歴になります。
- 胃のむかつきや嘔吐から痛みが右下腹部移動する場合は急性虫垂炎の可能性があります。
- 痩せ型の高齢女性の鼠蹊部(そけいぶ)痛は閉鎖孔ヘルニアの典型的な病歴となります。
※上記はあくまで”典型的”な病歴であり、実際の診断はもっと複雑です。病歴だけでの判断ではなく、診察の上での診断が必要です。
腹痛の時に必要な情報
問診
- 腹痛以外の症状があるか。
- いつから続いている症状か?1週間以上または来院直前に症状が出現したなど。
- 食事の摂取との関係性。食後の痛みか、空腹時の痛みか。
- 治療中の病気について(既往歴)
- 背中や腰、肩に放散する痛みかどうか。
- 女性では妊娠の可能性について。月経の情報も併せて。
- アルコール摂取に関して。頻度や一回あたりの量など。
- 排便習慣に関して。便秘や下痢などの情報や、血便や黒色便のエピソードがあるかなど。
腹痛の検査

腹部超音波
腹部超音波は安全な検査であり、診断能の高い検査になり、腹痛の精査で第一に選択される検査です。肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、腸管など幅広い疾患の診断に有用です。
血液検査
炎症マーカー(白血球、CRP)、肝酵素(ビリルビン, AST, ALT)、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)などで原因の精査を行います。
腹部レントゲン
小腸や大腸の内部の空気を評価することで、腸管の閉塞所見が同定できる場合があります。また撮影条件によっては尿管結石が同定できます。
尿検査
尿潜血、尿中白血球が陽性の場合、尿路結石、尿路感染症などが考えられます。また女性では妊娠の可能性を検査することがあります。
胃内視鏡検査
特に心窩部痛の原因の精査として行われます。逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍、胃アニサキス症の診断と治療が行われます。
腹痛がある場合はいつでも受診してください
腹痛は色々な疾患の最初の症状になりえます。また緊急度も多彩で、程度の軽い腹痛でも緊急性が高い場合もあります。腹痛が改善しない場合は消化器内科の専門医を受診し、しっかり診察を受けた方がいいでしょう。何か困ったことがありましたら、何でもご相談ください。