食道アカラシア
Scroll食道アカラシアとは?
食道は喉頭〜胃までの約25cmの括約筋で構成される消化管です。その役割は、口から入った食べ物や水分を、蠕動運動によって胃へと運ぶことです。食道と胃の接合部である噴門が開閉することで食べ物や水分が胃へと送られ、一方で、胃からの逆流を防ぎます。食道アカラシアの患者さんはこの噴門の働きを調整する下部食道括約筋がうまく弛緩(緩む)せず、食べ物が食道から胃に通過しにくい状況が起こります。この病態が食道アカラシアです。また食道アカラシアの患者さんの食道は全体的な蠕動運動自体が低下することもあり、嚥下困難感などの重度の症状を引き起こします。

食道アカラシアの造影検査 (Kubo Y, et al. Postoperative pregnancy in female achalasia patients: Report of three cases. Int J Surg Case Rep 2021;79:398-401. According to the Creative Commons license.)
食道アカラシアの症状とは?
以下のいずれかの症状がある場合は、食道アカラシアの可能性があります。
- 食物のつかえ感
- 食物の逆流
- 体重減少
- 胸の痛み
特に初期の食道アカラシアは食べ物(食塊)は飲み込めるが、水の飲み込みが難しいという独特なつっかえ感が特徴的です。症状が進行すると食物が食道の内部に貯留し、食道が拡張します。次第に食事が取れなくなり、体重が減少します。また食道に貯留した食べ物が原因で誤嚥性肺炎の原因になります。
食道アカラシアの原因とは?
食道アカラシアの原因は原発性の場合は不明です。二次性アカラシア(他の原因で起こるアカラシア)の原因としてはアミロイドーシス、サルコイドーシス、好酸球性食道炎、若年性シェーグレン病やファブリー病などがあります。
食道アカラシアの治療とは?
アカラシアの治療は非常に専門的であり、治療経験のある先進施設で行われます。最近では内視鏡による内視鏡的筋層切開術Peroral endoscopic myotomy (POEM ポエム)が昭和大学江東豊洲病院を中心に行われております。その他内視鏡的バルーン拡張術や外科的手術、薬物療法が選択肢となります。
(1) 内視鏡的筋層切開術Peroral endoscopic myotomy (POEM ポエム)
昭和大学の井上先生が2008年に世界に先駆け実施した、全て内視鏡で行う筋層切開術です。今では食道アカラシアの罹患が多い海外(特に北米)で広く実施されています(私もカナダ勤務時代に何例か執刀した経験があります)。日本でも昭和大学江東豊洲病院を中心広がっています。処置の一番の利点は内視鏡のみで手技を完結でき、体への負担が少ない点です。食道の粘膜を切開し、粘膜下層(粘膜と筋層の間の層)に潜り込み筋層を露出し、内視鏡化で筋層を切開します。下部食道括約筋が切開されると食道が弛緩し、食道の通過が改善します。
(2) 内視鏡的ボツリヌス毒素局注術
内視鏡的に下部食道括約筋にボツリヌス毒素を注入し、括約筋の圧を低下させる効果があります。この処置の利点は手技が簡便な点ですが、再発を起こしやすいという欠点があります。他の治療を検討する中での補助的な役割にも使用できます。
(3) 内視鏡的バルーン拡張術
消化管内視鏡とレントゲン装置を用いて場所を確認しながら、狭くなっている食道胃接合部にバルーン(医療用の風船)を留置し、狭くなっている部分を広げます。根本的な治療ではないため、一時的には改善しますが、定期的な処置が必要になる場合が多いです。
(4) 外科的筋層切開術
外科的治療として腹腔鏡下もしくは開腹手術で食道胃接合部の筋肉を切開する「Heller筋層切開術」と胃液逆流を予防する「Dor噴門形成術」を行う「Heller-Dor手術」と呼ばれる手術が行われます。
(5) 薬物治療
薬物治療の効果は上記治療には劣りますが、選択肢としては検討されます。硝酸イソソルビドやニトログリセリンは食事の10-15分前に内服することで効果があると言われています。また降圧薬であるカルシウム拮抗薬の有効性を報告する研究がいくつかあります。
参考文献
UpToDate: Achalasia: Pathogenesis, clinical manifestations, and diagnosis