高血圧症
Scroll高血圧症とは
心臓がポンプの役割を果たし、全身に血液を送り出します。その送り出される血液を全身に届ける管が動脈です。血圧はその血管内に生じる圧のことを指します。血圧は心臓の収縮に従い、心臓が収縮している時の血圧を収縮期血圧、心臓が拡張している時の血圧を拡張期血圧として測定されます。血圧が高くなると、血管内の圧が高くなるため脳心血管病の発症リスクが高くなります。そのため高血圧症の治療は将来の重大イベントである合併症の発症を予防することが一番の目的です。
高血圧症は加齢とともに有病割合は上昇し、50歳代以上の男性、60歳代以上の女性では50%を超えています。特に男性では肥満に伴う高血圧症が増加傾向です。
なぜ高血圧を放置してはいけない!?
高血圧症には基本的に症状がありません。そのため患者さんは症状で受診するのではなく、健診などでの血圧異常などで受診します。内科医として皆さんに伝える必要のあるメッセージは「現在の安定した血圧が将来の心臓病や脳卒中を防ぎ、不幸な結果を防ぐことができます」です。血圧が高ければ高いほど心臓病(心筋梗塞や狭心症)や脳卒中(脳出血や脳梗塞)の危険性が高くなります。
注意すべき血圧値とは!?
血圧は低いほど脳心血管疾患の発症リスクは低減されますが、結局一番目安となる血圧の値は幾つでしょうか?高血圧の既往歴がない状況で、初めて血圧の値から高血圧症を考える基準となる値は140/90 mmHgになります。この値は一番血圧が高くなると言われる診察室での測定における高血圧の基準の値です(白衣高血圧と呼ばれます)。140/90 mmHg以上の血圧であった場合は迷わずに内科を受診して下さい。そして最近では高血圧の基準もより厳格になり、家庭血圧を参考に130/80 mmHgで判断する場合もあります。この130/80 mmHgは降圧治療の目標値にもなります。
血圧の測り方
使用する血圧測定器
基本的に上腕で測定する市販の自動血圧計での測定で十分です。
(理想的な)測定の条件
- 静かで適切な室温の環境
- 背もたれのある椅子に脚を組まずに座り、数分間安静にする
- 会話はしない
- 測定前に喫煙や飲酒、カフェイン(コーヒー)の摂取はしない
- カフの位置を心臓の高さで維持できる
測定のタイミング
朝起床後の1時間以内に測定を行います。その他の条件としては排尿後、朝の内服薬の服用前、朝食の摂取前、座位で1~2分の安静の後に測定することが理想的です。夜間での測定では就寝前に座位で1~2分の安静の後に測定を行います。
測定回数と期間
原則として1機会に2回測定を行い、平均値を記録することが推奨されます。また測定は基本的に治療期間中はずっと継続することが必要になります。
高血圧の診断:2次性高血圧症の判断
高血圧症には2つのタイプがあり、本態性高血圧と二次性高血圧があります。本態性高血圧とは一般的な高血圧症とされる特定の原因がはっきりしない単純に血圧が高い高血圧のことを指します。一方二次性高血圧とはある原因があり、その影響で高血圧になっていることを指します。一般的に二次性高血圧は治療抵抗性なことが多いですが、原因に対する適切な治療による効果的な降圧ができるために適切に診断することが大切です。どのような局面で二次性高血圧を疑うかというと以下のようなケースが当てはまります。
- 若い年齢での高血圧
- 異常に血圧が高い高血圧
- 治療抵抗性の高血圧→それまで良好であった血圧管理が難しくなった場合
- 急速に発症した高血圧
- 血圧の値は軽度の上昇であっても、腎臓などの臓器障害が強い場合
- 血圧の変動が大きい場合
二次性高血圧が疑われる場合は診察と血液検査で高血圧の背景にある原因を探ります。主な二次性高血圧の原因は以下のような疾患があります。
腎臓による高血圧
- 腎血管性高血圧(動脈硬化や大動脈炎などにより、腎臓への血流が減少することで腎臓が血流を上げようと血圧を上げる)
- 腎実質性高血圧(腎臓が分泌するホルモンの異常で血圧が上昇する)
内分泌ホルモンの異常による高血圧
*原発性アルドステロン症
*クッシング症候群
*褐色細胞腫
その他の原因
*睡眠時無呼吸症候群
*薬剤誘発性高血圧
高血圧の診断
血圧が高くなりやすい診察室での血圧測定で140/90 mmHgを超える場合は家庭で血圧を記録してもらい、家庭血圧で135/85 mmHg以上であれば高血圧の診断となります。また130/80 mmHg以上は高値血圧とされ、正常血圧レベル(120/80 mmHg以下)と比較し、脳心血管病リスクが上昇するため血圧のモニタリングは継続が必要です。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
---|---|---|
高値血圧 | 130-139 かつ/または 80-89 | 125-134 かつ/または 80-90 |
Ⅰ度高血圧 | 140-159 かつ/または 90-99 | 135-144 かつ/または 85-89 |
Ⅱ度高血圧 | 160-179 かつ/または 100-109 | 145-159 かつ/または 90-99 |
Ⅲ度高血圧 | 180≦ かつ/または 110≦ | 160≦ かつ/または 100≦ |
高血圧症の診断の際に必要な検査
下記の検査は一般的に高血圧と最初に診断された際に行われることがあります。
①心電図
狭心症や不整脈の精査の目的で行われることがあります。
②心臓超音波(心エコー)
心臓の機能を確認します。また心臓の逆流を防ぐ弁が正常に機能しているか確認します。ただし、心臓超音波は施設によっては胸部聴診などで明らかな弁膜症が疑われる場合に実施する場合もあります。
③血液検査
2次性高血圧の精査の目的に血漿レニン活性(PRA)/アルドステロン濃度や甲状腺機能(TSHとFT4)と電解質(血中のミネラル)の測定を行います。また高血圧は糖尿病と脂質異常症(高コレステロール血症や)、腎機能障害を合併しやすいためそれらの精査も併せて行います。
④胸部X線
2心肥大や心不全の確認の目的で胸部レントゲンを撮影します。これは今後の経過を診る上で最初の写真は常に比較対象となるため必要となります。
⑤尿検査
尿たんぱくの精査を行い、現状の腎臓機能が高血圧の影響を受けていないか確認します。
高血圧の治療計画
高血圧と診断されたら、次は治療計画の作成になります。まずは将来の心臓病と脳卒中になるリスクを評価します。このリスクに応じて治療方針が決定されます。
血圧の目標値
治療目標は大きく年齢によって分類されております。
- 合併症のない75歳未満:130/80mmHg未満
- 75歳以上の高齢者:140/90mmHg未満
上記の値を目指して治療を開始します。
高血圧の治療
高血圧症の治療薬を使わない生活習慣の修正と、薬を使用する降圧薬治療に分けられます。また当院ではアプリによる高血圧治療であるCureApp HT高血圧治療補助アプリが保険診療で使用可能です。
生活習慣の修正
①食塩の制限
日本人は濃い食事を好む国民性であり、世界的に見ても食塩の消費量が非常に多い国になります。専門的な話になりますが、塩は「塩化ナトリウム」であり、このナトリウムを多く摂取すると浸透圧の影響で血管内に多くの水分を体内から引き込んでしまいます。その結果として塩分の摂取は高血圧へとつながっていきます。その塩化ナトリウムの摂取量を減らすことで、血管内の水分量を減らし、血圧を安定していくことが目標です。現在1日の塩分量の目標値は6g/日未満とされています。この6g/日未満を達成するにはかなり薄口の食事に慣れる必要があります。日本高血圧学会もホームページで減塩の食事ついて記載しておりますので、一度確認することをお勧めします。
②野菜と果物の積極的な摂取
野菜と果物に含まれるカリウムは降圧作用が期待できますので、より積極的に摂取してください。ただし腎臓の機能が悪い方はカリウムが過剰になるために注意が必要です。
③適正な体重の維持
体重のBMI>25の方は高血圧の発症のリスクが1.5-2.5倍になるとされています。BMI>25は肥満と定義され、身長170cmの男性で72kg以上、身長160cmの女性で64kg以上になります。肥満による内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を助長し、血圧の上昇につながります。BMIを最低でも25以下にすることを目標とすることが望まれます。
④運動療法
運動により血圧の低下効果が期待でき、また運動により肥満の改善につながります。心臓や脳に持病がない方であれば、速歩きやスロージョギングで30分程度の有酸素運動を目標にしましょう。
⑤節酒
アルコールは長期間持続的に摂取を続けることで高血圧の要因となり、また脳卒中やがんの原因になります。最低でもアルコールの休肝日を週に数日作り、飲む際も純アルコール20-30g(ビール中瓶1本、日本酒1合、焼酎0.5合程度)までにしましょう。
⑥禁酒
喫煙は百害あって一利なしです。タバコを吸うことで血圧の上昇に直結します。高血圧と診断された場合、タバコは減らすのではなく、禁煙が必要です。高血圧の治療をしながらタバコを吸うことは、火事の消火で水を撒きながら、反対側で同時にガソリンを撒くことと同じことです。
アプリによる高血圧治療(保険診療)
当院では株式会社CureAppの高血圧治療アプリの処方が可能です。アプリによる治療期間は半年で、高血圧治療ガイドライン2019年や学術論文に準拠し、薬事承認された治療になります。アプリ治療の良い適応となる方は、降圧薬治療を今後続けるのではなく、本気で生活習慣の改善による高血圧治療の決意がある方です。今後高血圧と向き合う第一歩としてアプリ治療は良い選択肢になるのではと考えております。
降圧薬治療
血圧を低下させる薬物治療を降圧薬治療といい、多くの薬剤が上市されています。薬物治療の原則は毎日欠かさず飲み続けることです。血圧のコントロールが悪く、その原因が薬を飲んでいなかった、というのはよくある話です。そのため血圧の薬は患者さんの負担が少なくなるよう1日1回の内服や、複数の薬効を合わせた配合剤(2つの薬を1錠にした錠剤)など様々な改良が進んでおります。降圧薬の第一選択となるのは、カルシウム拮抗薬、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤)及びACE(アンジオテンシン変換酵素)と利尿薬(主にサイアザイド系利尿薬)です。さらに心臓の合併症の状況からβ遮断薬やその他利尿薬も選択されます。
①カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は内科医がまず使う降圧薬の一つであり、血管の拡張作用による血圧低下効果があります。また合剤としても多く使われている薬剤であり、将来的な合剤の使用も見越した選択として最初に使用されます。
よく使用する薬剤としてはアムロジピン(商品名 ノルバスクなど)やニフェジピンCR(アダラートCR)などがあります。
②ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤)及びACE(アンジオテンシン変換酵素)
アンジオテンシンⅡという物質が血管収縮性に血圧を上昇させるため、その働きを抑制することで血圧を低下させる薬剤になります。こちらも色々な種類があり、基本的に薬剤の優劣に大きい違いはないですが、合剤を考えるとテルミサルタンは複数の配合剤が販売されており、将来を見据えた選択肢となり得ます。これらの薬は同系統の薬になり、同系統で複数の薬を高血圧治療に使うことは原則ありません。
③サイアザイド系利尿薬
サイアザイド系利尿薬は尿中へ塩分の成分であるナトリウムの排泄を促す薬剤です。長期的には血管拡張作用もあると言われます。そのため浮腫(むくみ)など、体の中の体液が貯留傾向にある場合に使用されることが多いです。
上記の治療を開始し、さらに降圧治療が必要と判断した場合は薬剤の増量や2-3種類の薬を使用した併用療法になります。複数の治療薬での効果が不十分な場合は高血圧専門医による精査が必要になる場合があります。
健診で高血圧の疑いを指摘されたら
健診結果で高血圧の疑いがある方は是非内科専門医を受診してください。その一歩が将来の心臓病や脳卒中の予防につながります。不明な点はなんでも相談してください。
参考文献
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.高血圧治療ガイドライン2019.日本高血圧学会.ライフサイエンス出版;東京:2019.