好酸球性食道炎
Scroll好酸球性食道炎とは?
好酸球性食道炎は指定難病に含まれる病気で、食物を抗原としたアレルギー反応により白血球の一つである好酸球が食道に集まり、慢性的な食道症状(つっかえ感、嚥下困難、峰やけ)を生じる疾患です。好酸球は胃や腸にも集まることがあり、その際は好酸球性胃腸症と呼ばれ、好酸球が食道のみに限局する場合好酸球性食道炎と呼ばれます。患者さんの好発年齢としては20~50歳を中心とする若年〜中高年男性です。
好酸球性食道炎の原因は?
好酸球食道炎の原因はまだわかっていませんが、好酸球性食道炎はアレルギー疾患と強い関連があることがわかっています。アレルギー疾患とは食物アレルギー、喘息、花粉症によるアレルギー性鼻炎などが含まれます。幅が広いですが成人で発症する28~86%、小児の42~93%がアレルギー疾患を合併していると報告されています。また他に考えられる原因としては免疫システムの異常や喫煙や飲酒などの生活習慣などが挙げられます。
好酸球性食道炎の症状は?
好酸球性食道炎の症状は食道が狭くなったり、食べ物の進みが悪くなったりします。主なものとしては以下のような症状があります。
- 嚥下時の痛みや不快感
- 胸焼けや胸部痛
- 食道の狭窄感や詰まり感
- 嚥下困難
- 食事中に喉や胸につまる感覚
好酸球性食道炎の診断は?
好酸球性食道炎の診断は胃内視鏡(胃カメラ)と組織検査にて行います。内視鏡の典型的な所見としては以下の画像のような所見になります。①白色の滲出物がある、②リングのような輪が連続したように観察される、③縦に細長く走る溝、④粘膜が浮腫んで血管が見えなくなる、⑤食道が狭くなる、などの所見です。これらの所見と生検で組織検査を行い、病理検査で好酸球が一定数認められたら好酸球性食道炎の診断となります。
Römmele C, et al. An artificial intelligence algorithm is highly accurate for detecting endoscopic features of eosinophilic esophagitis. Sci Rep 2022. According to the Creative Commons license.
好酸球性食道炎の治療は?
①プロトンポンプ阻害剤(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
PPIやP-CABは胃酸の分泌を抑える薬になります。これらの薬は逆流性食道炎に保険適応となっておりますが、好酸球性食道炎の患者さんには保険適応ではありません。しかし、臨床的には第一に使用され、約60%の方に効果があると言われております。背景としては胃酸の影響を除外することで食道粘膜の損傷が修復され、食べ物のアレルゲンの侵入が減ることが関係している可能性とPPIの抗炎症作用が考えられております。治療期間は逆流性食道炎の治療と同様に8週間程度とされていますが、治療後に再燃する場合もあります。
②ステロイド
上記のPPIやP-CABの治療で胃酸の分泌を抑えても症状が改善しない場合、ステロイドの治療の適応になります。ステロイドは免疫を抑制する強力な治療であるため、基本的に点滴や内服治療ではなく、最初に食道局所療法(嚥下療法)が行われます。これは気管支喘息に使用する吸入ステロイド製剤である吸入懸濁型ブデゾニド製剤などを吸入器(ネブライザー)で吸入するのではなく、嚥下することで食道にステロイドを届けます。嚥下後は速やかにうがいをして、1時間程度は絶飲食にします(流れ落ちるのを防ぐため)。うがいをしないと口腔内カンジダ症になり、口の中にカビが生えることになります。 2024年2月にはアメリカで好酸球性食道炎を対象としたブデゾニド経口懸濁液である経口治療薬EOHILIAがFDA(アメリカの薬剤などの承認機関)により承認されました。これはスティック包装で利便性が高いとされています。北米では患者さんが多いため、日本より需要があると思われます。日本でも早く承認されることを期待したいと思います。
コラム
エピソード:好酸球性食道炎の症状である「ステーキハウス症候群」
カナダのトロントで内視鏡医として働いていた際に、時々緊急で呼ばれること理由として” food bolus impaction”がありました。これは食塊(ステーキ肉など)が食道で詰まってしまい、その食塊が胃に進めなくなり胸が苦しくなってしまう状態のことです。通称「ステーキハウス症候群」と呼ばれています。何故食べ物が食道で詰まるのかというと、食道が狭くなっているためです。一番原因で多いのが重度の逆流性食道炎ですが、特に若年男性の場合、好酸球性食道炎も原因として何回か経験しました。治療は詰まった食塊を内視鏡(胃カメラ)で口から除去するか、胃に押し込むしかありません。この処置は意外にも時間がかかることが多く、患者さんには辛い胃カメラになります。今後治療法が発達し、このような辛い胃カメラを受ける人が減ることを願いたいです。