大腸憩室症とは:憩室炎と憩室出血

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大腸憩室とは

大腸憩室とは大腸の壁が外側に突出して、内側から見れば袋状になった構造物を言います。食道憩室、胃憩室、傍乳頭憩室(十二指腸)、メッケル憩室(小腸)など、人間の消化管にはさまざまな憩室ができます。その中で大腸憩室は頻度が断トツであると言われています。日本人では大腸憩室の保有者は23.9%(2001-2010年の統計)であり、4人に1人は保有していることになります。欧米の国に比しては少ないですが、食の欧米化の影響か、大腸憩室を保有する日本人は増えてきています。日本人では若い人の大腸憩室は右側の大腸(上行結腸、横行結腸)に多いと言われていますが、年齢を重ねると左側の大腸(下行結腸、S状結腸)が増えてくると言われています。

大腸憩室症の原因

大腸憩室症の原因として明らかなことは”加齢”に伴い大腸憩室症の頻度が増加することです。特に高齢になると全ての大腸に憩室が多発することもあります。また大腸憩室が起こる解剖学的な構造としては大腸の壁の層である筋層を貫く直動脈の存在です。大腸の壁を支える筋層を直動脈が貫く部位は、構造上内側からの圧に弱い部位になります。そのため直動脈の存在により憩室ができると言われています。また大腸憩室の形成に直動脈が影響しているため、憩室から出血を起こす大腸憩室出血も直動脈が破綻することで起こります。

大腸憩室症が起こす疾患

大腸憩室は基本的に無症状です。基本的に大腸憩室は大腸内視鏡時に偶然発見される場合が多く、無症状のまま一生を終える大腸憩室症の患者さんは70~85%と言われています。しかし、症状を発症する場合、大腸憩室は2つの疾患に関係します。大腸憩室炎と大腸憩室出血です。

大腸憩室炎

症状

大腸憩室炎の典型的な症状は腹痛です。特に60歳未満の方は右側の大腸に憩室が多く、右側の腹痛が典型的です。盲腸に存在する憩室炎の場合、虫垂炎(一般的な名称は盲腸)との鑑別が必要になります。60歳以上の方は左側(特にS状結腸)に好発し、左下腹部付近の痛みが多くなります。

診断

身体所見と超音波やCTなどの画像評価、白血球やCRP(炎症マーカー)など血液検査での総合的な評価で診断されます。特にCT検査は大切であり、炎症の部位と憩室の存在、膿瘍(うみの貯留)の存在など重要な情報が得られます。大腸憩室炎が発症している際に大腸内視鏡検査は行いません。大腸の内圧を上昇させ、憩室炎を悪化させる危険性があるためです。基本的に憩室炎が落ち着いた段階で大腸内視鏡で大腸の評価を行います。

大腸憩室出血

症状

大腸憩室出血の症状は血便です。特に腹痛を伴わない肛門からの出血を見たら鑑別として考えなくてはなりません。その他、大量の出血が起きた場合は、出血性ショックの症状として血圧が低下し、意識を消失したりすることがあります。

診断

大腸憩室出血は造影剤を使用したCTで憩室出血の可能性を判断し、緊急での大腸内視鏡の適応と判断されれば、大腸内視鏡で最終診断と治療を行います。ただし、憩室出血の診断の難しい点は、憩室出血の現場を大腸内視鏡で見つけることが難しいことです。憩室出血と診断し治療するには以下の3つの所見のうち一つを見つける必要があります。A.実際に目の前で出血している憩室(活動性出血)、B.凝血塊が溜まっている憩室(付着凝血塊)、C.出血を起こしそうな露出血管がある(非出血性露出血管)、の3つです。この3つをstigmata of recent hemorrhage(SRH)と呼びます。実はこのSRHを見つけることが非常に難しく、専門的な施設でも10~30%程度とされています。そのため出血源の不明だが、恐らく大腸憩室出血だろうと判断した場合、Presumptive(恐らく)憩室出血と診断されます。

a-c出血している憩室の所見(SRH)、d バンド結紮術 (Honda H, et al. J Gastroenterol Hepatol 2019.)

大腸憩室症の治療

大腸憩室炎の治療

大腸憩室炎の治療は絶食による腸管安静が基本です。現在軽度の大腸憩室炎であれば抗生剤を使わず外来での治療も選択肢ですが、炎症が強い場合は入院での抗生剤治療が行われることもあります。画像で膿瘍を伴う憩室炎の場合はドレナージ術(排膿)や外科的なドレナージも検討されます。また頻回に繰り返すS状結腸の憩室炎は膀胱や膣などと瘻孔を形成する場合もあり、その場合は外科的な大腸切除などの適応になります。

大腸憩室出血の治療

大腸憩室出血の治療の原則は出血の管理として血圧などのバイタルサインの安定に努め、専門医が出血源の同定が可能と判断した場合、大腸内視鏡が行われます。もしSRHを発見した場合は、内視鏡クリップや最近ではバンドによる結紮術での止血が主流になってきています。
ただし、憩室出血のうち、約80%はいったん自然止血するとされていますが、再出血率が高く、1年で約30%、2年で約40%ともいわれています。一度出血が止まっても別の憩室から出血したりし、何度も同じエピソードに悩まされる場合もあります。

大腸憩室と向き合うには

大腸憩室は大腸の壁の袋状の窪みであり、除去することはできません。そして無数に存在します。そのため何度も同じ部位で起こる憩室炎を除き、病因となる責任憩室を同定することは難しいため、手術での切除も現実的ではありません。基本的には便秘を防ぐ食生活や、適度の下剤の使用で、便が憩室にはまり込まないように気を付けることが現実的な対応です。しかし、大腸憩室の80%以上の方は無症状で経過し悪性化しません。基本的に何も症状がない場合は過度な心配は不要であると考えます。

参考文献

(1) Ishii N, Setoyama T, Deshpande GA, et al. Endoscopic band ligation for colonic diverticular hemorrhage. Gastrointest Endosc 2012;75:382-7.
(2) Honda H, Ishii N, Takasu A, et al. Risk factors of early rebleeding in the endoscopic management of colonic diverticular bleeding. J Gastroenterol Hepatol 2019.
(3) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/38/5/38_807/_pdf

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