便がなかなか出ない:便秘について解説
Scroll便秘は消化器内科では一般的な症状です。そもそも便秘とは「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞り、兎のフンのような便や硬い便、排泄回数の減少、過度な怒責(いきみ)、残便感、肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されています。便秘の期間としては6月以上前から症状が発症し、最近3ヶ月間はその症状が持続していることとされています。便秘は日常生活の質を低下させると言われております。さらに便秘は過度な怒責(いきみ)を誘発し、排便失神や循環器系に負荷がかかりやすいことが知られています。また腸内細菌叢が変化することも合わさり、動脈硬化や心血管疾患などの発症にも関わっています。
便秘を予防する理想的な排便姿勢とは!?
より良い排便習慣を目指すためには、適切な排便時の姿勢も大切です。排便にはしゃがんだ姿勢が望まれます。さらに前傾姿勢になることで直腸と肛門が真っ直ぐになり、肛門を締める括約筋が緩みやすいとされています。洋式のトイレであればトイレに踏み台を設置し、背骨と太ももが35 度になるような姿勢になると排便しやすくなります。
便秘の分類
便秘には大きく2種類のタイプがあります。機能性便秘と二次性便秘です。機能性便秘とは何かしらの原因で大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が低下し便秘になることです。一方、二次性便秘は大腸がんや炎症性腸疾患などの大腸の病気によって起こる便秘、または薬剤の影響による便秘などのことを指します。
機能性便秘
機能性便秘の診断には大腸内視鏡による器質的便秘ではないことの確認が必要です。
①弛緩性便秘
大腸の便を進める力が弱くなるタイプの便秘です。大腸の力が緩くなり、便が大腸に長時間滞在するため水分の吸収が進み、便が固くなります。そしてさらに便の進みが悪くなります。食物繊維の少ない食事を摂取している場合は、大腸に到達する便の量が少なくなり、便の運動不足が生じ弛緩性便秘を生じると考えられています。また女性は年齢を重ねるとホルモン分泌の影響で弛緩性便秘が生じやすくなると言われています。そのほかには運動不足も慢性便秘症の発症率を上げると言われており、適度な運動は生活習慣病だけでなく便秘にも効果があります。
②痙攣性便秘
便秘型過敏性腸症候群に近い病態ですが、緊張やストレスの影響で大腸の動きが不規則になることで起こる便秘です。自律神経の不調が大腸の痙攣につながり、大腸の蠕動が不安定になり便秘と下痢を交互に繰り返すことがあります。
③直腸性便秘
便が肛門の直前の直腸に到達すると、直腸の壁が刺激され脳に伝わることで便意を催し、排便反射が起こることで便が排出されます。この排便反射が弱くなり起こる便秘を直腸性便秘と言います。「出そうなのに出ない」などと訴え来院される方が多いです。原因は日常生活で排便をよく我慢してしまうことです。理想的には朝食を食べ、その後毎日定期的に朝トイレに行き排便する習慣を作ることです。。
二次性便秘(器質性便秘)
二次性便秘は大腸がんや炎症性腸疾患に伴う便秘です。また内服している薬剤の影響による便秘もこの範疇に入ります。慢性的な便秘で大腸内視鏡が必要とされる理由はこの大腸がんなどの病気を発見する必要があるからです。便秘だと思い便秘薬を使っていたが、全く改善せず症状が強くなり大腸内視鏡をしたら実は大腸がんがあった、という患者さんを少しでも減らすことが内視鏡医の宿命だと思います。40歳以上から大腸がんになる人が増えてきますので、今まで大腸内視鏡を受けたことがない人は、一度消化器内視鏡医に相談することをお勧めします。特に以下のような特徴を伴う場合は受診が必要です。
- 排便習慣が急激に変化した
- 血便が出る
- 最近6ヶ月で予期せぬ3kg以上の体重減少
- 発熱を伴っている
- そのほか身体的な不調を伴っている
便秘の治療について
便秘治療の目的は快適な排便習慣の実現と、その維持による日常生活の質の向上です。そのためには生活習慣の改善が一番大切であり、便秘薬による治療はそのサポートになります。
② 生活習慣の改善
①朝の決まった時間にトイレに行き排便をする
排便習慣の確立は便秘の改善に最も必要なことです。ベストなタイミングとしては朝食を摂取し、その後一定の時刻を決めて便意がなくてもトイレに行くことです。またその際に上記の排便姿勢(背骨と太ももが35 度になるような姿勢)も意識することが大切です。
②運動習慣
過度な運動は効果がありませんが、ジョキングなどの運動は消化管の活性を高めることに有効です。
③食物繊維の摂取と水分の摂取
排便回数や排便量が少ない場合の便秘の原因に食物繊維の不足が関係あります。食物繊維には大きく2種類があり水溶性食物繊維と不溶性食物繊維になります。便秘により良いとされているのは水溶性食物繊維になります。水溶性食物繊維には便の成分としてゲル状になり、排便を促す作用があります。また水溶性食物繊維には血糖上昇抑制効果やコレステロール上昇抑制効果があり、積極的に摂取することが推奨されています。水溶性食物繊維には昆布やわかめ、こんにゃく、里芋、大麦、オートミールなどがあります。一方不溶性食物繊維は便にボリュームを持たせる効果があり、大腸の動きが正常なタイプの便秘の場合は効果があるのですが、大腸の動きが落ちている場合は効果が弱いとされています。不溶性即持つ繊維はキノコや豆類などがあります。
④プロバイオティクス
腸内細菌は消化器内科の分野ではホットなトピックです。腸内には無数の腸内細菌が生息し、そのバランスにより腸内環境が保たれております。生きた微生物である乳酸菌やビフィズス菌、納豆などの発酵食品は腸内環境の改善効果があるとされています。
便秘薬による薬物治療
便秘薬には2種類のタイプがあり、刺激性下剤と非刺激性下剤です。刺激性下剤は大腸の神経叢に作用し、大腸を刺激し蠕動を促す作用の便秘薬になります。一方、非刺激性下剤は浸透圧や腸管内に水分の分泌を促す作用の便秘薬になります。基本的には非刺激性下剤を中心に内服治療を行い、レスキュー薬(効果が特に欲しい場面のみに使用)として刺激性下剤を使います。特に刺激性下剤は連日使用すると、どんどん必要な量が増えていき、そしてさらに便秘が悪くなる悪循環に陥ります。
便非刺激性下剤
酸化マグネシウム(商品名:酸化マグネシウム、マグミット)
浸透圧の作用で腸壁から水分を腸管内に移動させ、腸内容物を軟化させる薬になります。酸化マグネシウム製剤が第一に選択させることが多いです。基本的には安全な薬剤で安価で使いやすい薬になりますが、酸化マグネシウム製剤は稀に高マグネシウム血症を合併することがあるため定期的な血液検査が望まれます。
ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)
等張性の浸透圧性下剤です。大腸内視鏡の前処置薬であるモビプレップと同系統の薬剤になります。欧米ではすでに便秘に対して第一選択として一般的に使用されている薬剤ですが、日本でも2018年から慢性便秘症に保険適応になりました。
ラクツロース(商品名:ラグノスNF経口ゼリー)
糖の浸透圧作用を利用した浸透圧性下剤になります。もともと肝硬変の高アンモニア血症や産婦人科領域の排便の促進薬でしたが、ゼリー製剤として2019年に慢性便秘症に保険適応になりました。糖が名前に入っていますが、糖尿病患者さんにも安心して使用していただけます。
ルビプロストン(商品名:アミティーザ)
主に小腸の粘膜の塩素イオンを調整する機能に作用することで、小腸の中に水分の分泌を促す薬になります。高齢の方にも使いやすい薬になりますが、妊婦には禁忌とされています。吐き気を催すことがあるため、空腹時の内服は避けて食後に内服することになります。
リナクロチド(商品名:リンゼス)
リナクロチドも小腸で水分分泌を促すタイプの下剤になります。効果が高くエビデンスもある便秘薬であり、2018年に慢性便秘症に対して保険適応になりました。内服は基本的に食前ですが、下痢効果を強く期待し、敢えて食後に内服する場合もありますので、処方医の指示に従ってください。
エロビキシバッド(商品名:グーフィス)
主十二指腸で分泌される胆汁酸は刺激性のある消化酵素で、基本的に大腸の直前の回腸で体内に再吸収されます。この再吸収を阻害することで、大腸に流れる胆汁酸を増やし、大腸内の水分分泌増加と大腸の蠕動運動促進作用により排便を促します。食事の際に排出される胆汁酸のタイミングに合わせて食前の内服が基本となります。
刺激性下剤
センノシド(商品名:センノサイド、プルゼニド)
内服して大腸内で腸内細菌により作用効果を発揮する薬剤で、強い大腸の蠕動運動促進作用があります。さらに水分の分泌を促し、比較的効果が高い薬剤です。基本的に翌朝の排便効果を期待して就寝前の内服になります。刺激性下剤の筆頭の薬になり、連用は推奨されておらず、あくまでレスキュー薬としての役割で使用されます。
ピコスルファートナトリウム(商品名:ラキソベロン)
大腸の蠕動運動を刺激する下剤です。この薬も翌朝の効果を期待して就寝前に内服します。大腸内視鏡検査前日の下剤としても使用されます。
膨張性下剤
ポリカルボフィルムカルシウム(商品名:コロネル)
便秘症、下痢症ともに使用可能な薬剤です。水分を吸収し膨潤・ゲル化することで下痢の際には増加した水分を吸収します。便秘の際には消化管内で水分を保持することで便中水分量を改善させます。
便秘と向き合うには
便秘の改善には何よりも生活習慣が重要です。快便のための食事、同じ時間に排便に行くなど日常的なことから開始できます。また刺激性下剤については連用が推奨されていませんが、市販の便秘の改善を謳うサプリメントにも刺激性下剤の成分が含まれていることがあります。意識しないうちに刺激性下剤の成分を連用し、下剤依存性になっている可能性があります。便秘の市販薬を飲む際は成分をしっかり確認することが必要です。わからないことがあれば何でも相談してください。