虚血性腸炎
Scroll虚血性腸炎は大腸を栄養する動脈からの灌流(流れ)が悪くなり発症する大腸炎です。背景としては高齢、動脈硬化性疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の既往歴がある方に発症しやすい疾患と言われています。特に便秘傾向な60歳以上の女性はリスクが高いと言えます。
虚血性腸炎の病態:なぜ起きるのか?
虚血性腸炎は字の如く”大腸の血の流れが悪くなる(虚血)”病気です。実は左側の大腸(横行結腸、下行結腸、S状結腸)は心臓から運ばれてくる血流が腹部臓器で一番遠い場所の一つと言われています。そのため生理的に血の流れが悪くなりやすい部位になります。そこに加齢や生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)による動脈硬化によって血流の悪化し、さらに便秘に伴う腸管の内圧の上昇を伴うことで虚血性腸炎を発症します。発症する背景としては2つの要素があり血管側の因子(動脈硬化、心不全や腎不全などによる循環不全、腹部手術後、血管攣縮など)と腸管側の因子(便秘,腸管内ガス貯留,腸内容排泄遅延,洗腸や座薬使用,大腸内視鏡検査前処置など)に分けられます。
虚血性腸炎の内視鏡像
胃(Khrucharoen U, et al. Ischemic colitis as a cause of severe hematochezia: A mini review. J Clin Exp Gastroenterol 2022;1:22-26. According to the Creative Commons license.)
上記の内視鏡像は虚血性腸炎の際に見られる所見になります。軽度の初見としては粘膜の腫脹や発赤(A-C)です。そして重症度が高くなるにつれて縦走の潰瘍(C-G)を形成していきます。最も重症になると虚血のため腸管壊死(H,I)を伴う場合もあります。
虚血性腸炎の症状
虚血性腸炎の3大症状は腹痛、下痢そして血便です。一般的には腹痛と下痢が先行症状として起こり、その後血便を認めることが多いですが、その逆もありえます。また約15%の方は血便を伴わず腹痛のみであると報告されています。
虚血性腸炎の分類
虚血性腸炎は3つの分類があり①一過性型、②狭窄型、③壊疽型です。
①一過性型
ほとんどの方はこの一過性型です。基本的には腸管の安静により改善します。主に左側大腸が発症のメインとなります。
②狭窄型
約10-15%の虚血性腸炎は大腸の狭窄を伴う狭窄型とされています。このタイプは悪性腫瘍(大腸がん)に類似した狭窄像や腫瘤像を呈することがあり、大腸がんとの鑑別が非常に大切です。患者背景としてはより高齢の方や動脈硬化性疾患などの既往歴を有している方が多いです。狭窄型では右側の大腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)が多く報告されております。
③壊疽型(えそがた)
頻度としては10%以下になりますが、最も重症なタイプは腸管が壊死してしまう壊疽型であり、手術での腸管切除の適応となります。特にリスクが高い基礎疾患のある高齢者が発症しやすいため、腹痛や腹膜刺激兆候(腹膜炎のサイン)に乏しいことが多いことも報告されております。
虚血性腸炎の検査方法
血液検査
多量の出血の場合は貧血の評価が必要になりますので血液検査を行います。また腸管の虚血の程度で腸管壊死が疑われる場合は生化学検査(LDHやAST、CKなど)で評価を行います。
腹部超音波検査
超音波で観察条件が良ければ炎症で腫脹(腫れた)した大腸が観察され、診断の一助になります。
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は虚血性腸炎の診断に有用です。しかし、大腸内視鏡の前処置(下剤)や大腸内視鏡での送気(空気を入れる)の影響で虚血性腸炎が悪化する可能性もあります。基本的に一過性型の軽度の虚血性腸炎が疑われる場合は無理に症状が強い急性期に大腸内視鏡を行わず臨床判断で診断を下すこともあります。しかし、虚血性腸炎の背景に大腸がんが存在する可能性もあるため、症状が改善した段階で大腸内視鏡を受けることは強く推奨されます。治癒後の内視鏡でも瘢痕が観察され診断の確認にもなります。
虚血性腸炎の治療方法
治療の基本は腸管安静になります。症状が強く続く間は食事を摂取せず、水分のみの絶食治療が必要になります。水分摂取ができない場合は入院での点滴治療が望ましい場合があります。腸管の壊死などが疑われる場合は外科的に腸管切除が必要になります。
メッセージ
腹痛や血便は消化器内科の専門になりますので、遠慮せずに消化器内科の専門医を受診してください。入院が必要と判断した場合でも、スムーズに連携施設に紹介させていただきます。
参考文献
(1) Khrucharoen U, Jensen DM. Ischemic colitis as a cause of severe hematochezia: A mini review. J Clin Exp Gastroenterol 2022;1:22-26.
(2) UpToDate: Colonic ischemia