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専門医が解説:「FODMAP食」で腸が変わる-おなかの不調に悩むあなたへ –
目次
FODMAP(フォドマップ)食とは
おなかの張り、ガスがたまる、腹痛や下痢・便秘…。そんな慢性的な消化器症状に悩まされていませんか?これらの症状があるにもかかわらず、消化器専門医で検査を行なっても特に異常が見つからない。その場合過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシアと診断されることがあります。
こうした機能性腸疾患の背景には、食事内容が深く関係していることが近年注目されています。その中でも、世界的にエビデンスが蓄積されている食事療法が「FODMAP(フォドマップ)食」です。
この記事では、FODMAP食とは何か、どんな人に効果があるのか、そして実践する際のポイントを、消化器内科医の視点からわかりやすくご紹介します。
FODMAPとは?
FODMAPとは、次の頭文字をとった言葉です:
Fermentable(発酵性の)
Oligosaccharides(オリゴ糖)
Disaccharides(二糖類)
Monosaccharides(単糖類)
And
Polyols(ポリオール)
これらは、小腸でうまく吸収されず、大腸で発酵しやすい糖質の一群です。FODMAPを多く含む食べ物は、腸内細菌によって発酵されてガスを発生させたり、水分を引き込んで下痢を引き起こしたりするため、腸が敏感な人では強い症状の引き金になります。
図1:FODMAPの分類と主な食品
分類 | 糖質の種類 | 主な食品例 |
オリゴ糖 | フルクタン、ガラクトオリゴ糖 | 玉ねぎ、にんにく、小麦、大豆 |
二糖類 | ラクトース | 牛乳、ヨーグルト、ソフトチーズ |
単糖類 | フルクトース(過剰なもの) | りんご、はちみつ、マンゴー |
ポリオール | ソルビトール、マンニトール | りんご、洋ナシ、キシリトールガム |
FODMAP食の基本方針:Low FODMAPダイエット
FODMAP食では、まずFODMAPの摂取量を一定期間減らす(Low FODMAP期)ことで腸の状態をリセットし、その後に段階的に食材を再導入して、自分に合わない食品(=症状を引き起こす糖質)を特定します。
Low FODMAP食の3段階ステップ
- 除去期(2〜6週間)
→ 高FODMAP食品をすべて避ける - 再導入期(1~2か月)
→ 1種類ずつ食品を再導入し、症状の有無を確認 - 維持期
→ 問題のない食品は再度摂取し、個人に合った食事を継続
このプロセスを通じて、「自分にとってのトリガー食品」を明らかにすることが最大の目的です。
FODMAP食の効果とエビデンス
FODMAP食はオーストラリアのモナシュ大学で開発され、世界中の研究でその効果が確認されています。主に以下のような効果が報告されています。
- 過敏性腸症候群(IBS)患者の約70%が症状の改善を実感
- 腹痛、膨満感、ガス、下痢・便秘などの症状スコアが有意に低下
- 他の治療と併用することでQOL(生活の質)の向上
実際に食べてよいもの/避けるべきもの
FODMAPダイエットでは、具体的にどんな食品が「高FODMAP(避ける)」「低FODMAP(安心して食べられる)」に分類されるのでしょうか?
低FODMAP食品(安心)
- 炭水化物:白米、そば、グルテンフリーパスタ
- 野菜:にんじん、ナス、トマト、レタス、きゅうり
- 果物:バナナ、みかん、いちご、ブルーベリー
- タンパク質:肉類、魚、卵、豆腐
- 乳製品:ラクトースフリー牛乳、硬質チーズ(チェダーなど)
高FODMAP食品(避ける)
- 小麦製品:パン、パスタ、ラーメン
- 野菜:玉ねぎ、にんにく、キャベツ、ブロッコリー
- 果物:りんご、洋ナシ、すいか
- 乳製品:牛乳、ヨーグルト、ソフトチーズ
- 甘味料:ソルビトール、キシリトール
実践のコツと注意点
栄養バランスに注意
FODMAPを避けることで栄養バランスが偏ることもあるため、自己流ではなく管理栄養士や専門医の指導の下で行うのが理想的です。
完全除去が目的ではない
FODMAP食は「ずっと制限する」食事法ではなく、症状を起こす原因を絞り込むための一時的なアプローチです。
ストレスケアも重要
IBSなど機能性腸症状は、ストレスや心理状態とも密接に関係しています。食事療法と並行して、十分な休養やメンタルケアも欠かせません。
こんな人にFODMAP食が向いています
- 腸に異常がないといわれたのに、腹痛やガス、下痢に悩んでいる
- 乳製品や果物でおなかの調子が悪くなる
- ストレスを感じるとすぐにおなかがゴロゴロする
- 薬を飲んでもなかなか良くならないIBSと診断された
これらに当てはまる方は、一度FODMAP食を試してみる価値があるかもしれません。
まとめ:FODMAP食には根拠があります
FODMAP食は、ただの「流行りの食事法」ではなく、消化器の専門医療現場でも活用されている科学的根拠に基づく食事療法です。おなかの不調に悩む方にとっては、原因を突き止め、症状を大きく改善するきっかけになる可能性があります。
とはいえ、全ての人に当てはまるわけではありません。自己判断ではなく、必ず医師や栄養士に相談しながら、自分の腸に合った食事を見つけていきましょう。
参考文献
- Halmos EP, Power VA, Shepherd SJ, et al. “A Diet Low in FODMAPs Reduces Symptoms of Irritable Bowel Syndrome.” Gastroenterology, 2014.
- Staudacher HM et al. “Mechanisms and efficacy of dietary FODMAP restriction in IBS.” Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2017.
- 日本消化器病学会「機能性胃腸症・過敏性腸症候群診療ガイドライン」2020年版
- Monash University FODMAP Diet Resources
- 長沼睦雄 他「FODMAP食による過敏性腸症候群の管理」『日本消化器内視鏡学会雑誌』2022年