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下腹部が痛い-原因から対処法まで専門医が解説
目次
下腹部痛は一般的な症状です
下腹部に痛みを感じたことがある方は多いのではないでしょうか?男女を問わず、下腹部痛は日常的に起こりうる症状のひとつです。その原因は非常に多岐にわたり、時に重大な病気が隠れていることもあります。本記事では、消化器内科の専門医の視点から、下腹部痛の主な原因、注意すべきポイント、そして受診のタイミングについてわかりやすく解説します。
下腹部痛の定義と特徴
「下腹部」とは、おへその下から恥骨(股の骨)のあたりまでの腹部を指します。この領域には、消化器系(大腸、虫垂など)、泌尿器系(膀胱、尿管など)、婦人科系(子宮、卵巣)など多くの臓器が存在します。したがって、下腹部痛の原因を探るには、痛みの性質(鈍痛、差し込むような痛み、周期的な痛みなど)や、他の症状(発熱、下痢、血尿など)との関連が重要です。
下腹部痛の主な原因とその特徴
1. 消化器系の原因
● 急性虫垂炎(いわゆる盲腸)
- 症状:右下腹部の痛み(腹部が板のように硬くなる:板状硬)、吐き気、発熱
- 特徴:痛みがみぞおちから右下腹部へ移動する(移動性)
- 対応:緊急手術が必要なこともあり、早期の受診が重要
● 大腸憩室炎
- 症状:左下腹部の痛み、発熱、便秘や下痢
- 特徴:高齢者に多い傾向がある、下腹部痛の場合はS状結腸が多い
- 対応:腸管の安静のための食事療法が中心。抗生剤の使用は状態による。重症例では手術も検討される。
● 過敏性腸症候群(IBS)
- 症状:腹痛とともに便通異常(便秘、下痢)
- 特徴:ストレスや食事と関連しやすい、排便後に症状が軽快する
- 対応:生活習慣の改善と薬物療法
● 腸閉塞(イレウス)
- 症状:激しい腹痛、嘔吐、排便・排ガスの停止
- 特徴:過去の腹部手術の既往や腸閉塞の既往のある方
- 対応:早急な診断と治療が必要。手術になることも
2. 泌尿器系の原因
● 尿路結石
- 症状:突然の激しい痛み(疝痛)、血尿
- 特徴:背中から下腹部、鼠径部にかけて放散する、側背部の叩打痛
- 対応:自然排石を待つか、体外衝撃波や内視鏡手術
● 膀胱炎
- 症状:排尿時の痛み、頻尿、下腹部の不快感
- 特徴:女性に多い
- 対応:抗生物質で治療。再発しやすいため予防も重要
3. 婦人科系の原因(女性のみ)
● 月経関連の痛み(生理痛)
- 症状:周期的な下腹部の鈍痛、腰痛
- 対応:鎮痛薬や低用量ピルでコントロール可能
● 子宮内膜症、卵巣嚢腫、子宮筋腫
- 症状:慢性的な下腹部痛、不正出血、不妊
- 特徴:婦人科受診が必要。エコーやMRIで診断
- 対応:薬物療法や手術が選択される
下腹部痛の危険なサインと受診の目安
下腹部痛は多くの場合、自然に改善することもありますが、以下のような症状がある場合は早急な受診をおすすめします。
- 発熱を伴う
- 吐き気や嘔吐がある
- 急激に痛みが出現した
- 痛みが時間とともに悪化する
- 下血・血便や血尿がある
- 排尿や排便に異常がある
- 妊娠の可能性がある
- いつもの生理痛と違う
特に「急性虫垂炎」や「腸閉塞」「卵巣捻転」などは迅速な対応が求められる疾患です。痛みがいつから、どこに、どのように起こったかを整理して受診すると、診断がスムーズになります。急激な痛みは詰まる・破れる・捻れるに特徴的な症状であり、緊急的な処置が必要です。
下腹部痛に対して自宅でできる対処法
軽度の下腹部痛であれば、以下のような対処で改善することもあります。
- 安静にする
- 温める(カイロや湯たんぽなど)
- 水分をこまめにとる
- 消化の良い食事を心がける
- 市販の鎮痛薬(※常用は避けましょう)
ただし、これらは一時的な対処にすぎず、痛みが続く場合は必ず医師に相談してください。
まとめ:下腹部痛の緊急のサインがあればすぐに受診を
下腹部痛は日常的な症状である一方、時に重篤な疾患のサインであることもあります。「いつものことだから」「我慢できるから」と軽視せず、痛みの性質や伴う症状に注目しましょう。特に急激に出現する痛みや、増悪する痛みには注意が必要ですので、消化器病の専門医に相談しましょう。
参考文献
- 日本消化器病学会「消化器病学シリーズ」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp)
- 日本泌尿器科学会「尿路結石症診療ガイドライン」
- 日本産科婦人科学会「月経困難症・子宮内膜症に関するガイドライン」
- Merck Manual Professional Edition(https://www.merckmanuals.com)