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大腸がん検診①:大腸カメラは受けるべき?

大腸カメラは受けた方がいいですか?とよく聞かれます。消化器内視鏡の専門家としての結論は、大腸がん検診として50歳までに一度は大腸カメラを受けた方がいい!!、です。日本において、大腸がん検診は便潜血検査が行われております。便潜血検査は歴史のある、そして死亡率を減らすことが無作為化比較試験(RCT)で証明されている重要な検査です。(1) しかし検診としての大腸内視鏡はそれ以上に有益であり、アメリカでは大腸がん検診の第一選択肢となっています。なぜ、大腸内視鏡は検診として有益なのでしょうか?

便潜血検査は便の中の微量な血液成分(ヘモグロビン)を同定することで、便中の微小な出血を検出する検査です。2日間分の便から採取した検体を解析し、判定を行います。この判定でいずれの検体から陽性反応が出た場合は、大腸内視鏡での精査が強く推奨されております。つまりこの便潜血検査は2段階の検査であり、この2段階を完遂することがとても大切です。日本では便潜血検査の陽性の方が大腸内視鏡検査まで受ける人は約70%と十分な高さではないため、より皆さんが大腸内視鏡を受けやすい環境づくりの必要です。(2)

検査の精度としては日本対がん協会の2017年度の調査によると大腸がん検診で便潜血検査を10,000人が受けたとすると、陽性と判定される人(要精密検査)は607人、その後精密検査を受けた人は417人、そして最終的に大腸がんと診断された人は17人と報告されております。(3) 便潜血検査で陽性の方で実際に大腸がんが見つかる方は約2-3%で、便潜血検査自体はあくまで大腸内視鏡検査を受けていただくきっかけの要素が強い検査です。

大腸カメラは直接大腸の粘膜を観察でき、もし大腸腫瘍を認めた場合は大腸がん、大腸ポリープの診断と治療が可能です。つまり、がん検診としての大腸がんの早期発見の役割だけでなく、大腸ポリープの切除が同時にできる有益な検査です。2022年に大規模な無作為化比較試験が一流医学誌New England Journal of Medicineに報告されており、大腸がんのリスク(大腸がんになる人)が大腸内視鏡を受けることで明らかに減り、また大腸がん死亡率の減少も期待できることが報告されました。 (4) 便潜血検査の結果に関わらず、全員が1回は大腸内視鏡を受けることが望まれている状況と言えるでしょう。では、なぜ日本では大腸カメラががん検診で最初から受けられないのでしょうか?それは、大腸カメラが実施可能な内視鏡医が不足し、大腸カメラの合併症の安全性がはっきりしていないためなかなか議論が進んでおりません。しかし、日本消化器内視鏡学会がJEDプロジェクトを開始し、大腸カメラの安全性のデータも出てきております。今後日本でも議論が進んでいくことと思われます。

ここで一つ疑問が湧きませんか?大腸がん検診をみんなが受けたら、早期発見される大腸がんが見つかるため大腸がん死亡率が減ることは想像できますが、大腸がんになる人が減るのはなぜでしょうか?それは次回のブログ記事で説明しますが、大腸がんの発生の自然史が関係しております。

Colon Polyp Removal. Endoscope inside colonoscopy for Colon polyps search. 3d render.

大腸CT

近年大腸がん検診で実施している施設が多くなってきております。便潜血検査で陽性になった場合、大腸カメラでの精査が強く推奨されますが、癒着などの影響で大腸カメラの疼痛が強く、大腸カメラを望まれない方の選択肢の一つとして大腸CTが実施されます。大腸CTの有用性ははっきりと報告されておりませんが、全く精査されていない方がいる現状では、大腸カメラの代替検査として選択できる状況は今後も続けていくべきだと考えます。

S状結腸内視鏡は下剤を必要としない大腸カメラの一つです。前処置は浣腸のみで簡便ですが、その分観察できる範囲は限られ、肛門からS状結腸の30-40cmまでの範囲に限定されます。つまり大腸の半分以上は観察できておりません。しかし、2023年のシステマティックレビュー(研究を統合解析した質の高い研究)ではS状結腸内視鏡のみが有意に寿命を延長することが報告され、大腸がん検診としての有用性自体は高い検査です。(5) では現状の実施状況はというと、ほとんど施設で実施していません。つまり、”せっかく内視鏡を受けるのであれば、大腸カメラで全大腸を観察する方がいい”との考え方が一般的なためです。

アメリカでは45歳以上の人は、上記の大腸がん検診の検査のいずれか一つを無料で受けることができます。そのため一番有用性が高い大腸カメラを受ける方がほとんどです。大腸カメラの受診率は60%を超えており、実施大腸がんの死亡率や罹患率(診断される人)は1990年代以降アメリカでは劇的に減少しております。(6,7) 大腸カメラを検診で受けることで、国単位で大腸がんを減らせることを実証している状況と考えられます。

日本では大腸がん検診は便潜血検査のみが選択可能です(もちろん自費診療や人間ドックの大腸カメラは可能です)。そして、日本のがん検診の参加率の低さや、便潜血陽性の方が大腸カメラを受ける割合が十分に高くなく、課題が多い状況です。一方、日本の内視鏡医のレベルは世界で一番です。できるだけ多くの人を内視鏡医へ誘導できれば、日本の大腸がんで苦しむ方を少しでも減らしていくことができると信じております。大腸カメラへのハードルを低くしていくことも内視鏡の専門家としての使命だと考えます。

大腸がん検診は是非受けてください。特に便潜血検査が陽性と指摘された方は受けてください。大腸カメラは症状がある場合や、便潜血検査が陽性になり医師が必要と判断した場合に保険診療として受けていただけます。自費診療では約30,000円前後で大腸カメラを実施している施設もあり、自分自身の大腸の現在の評価と将来の癌の予防ができるのであれば高い出費ではない、と考えることもできます。是非50歳までに1回は大腸カメラを受けることをご検討ください。

1. Mandel JS, Bond JH, Church TR, et al. Reducing mortality from colorectal cancer by screening for fecal occult blood. Minnesota Colon Cancer Control Study. N Engl J Med 1993;328:1365-71.

2. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/process-indicator.html, [2023.11.18]

3. 日本対がん協会HPより引用;https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/

4. Bretthauer M, Løberg M, Wieszczy P, Kalager M, Emilsson L, Garborg K, et al. Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death. N Engl J Med. 2022;387(17):1547-56.

5.  Bretthauer M, Wieszczy P, Løberg M, Kaminski MF, Werner TF, Helsingen LM, et al. Estimated Lifetime Gained With Cancer Screening Tests: A Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Intern Med. 2023.

6. Siegel RL, Miller KD, Goding Sauer A, Fedewa SA, Butterly LF, Anderson JC, et al. Colorectal cancer statistics, 2020. CA Cancer J Clin. 2020;70(3):145-64.

7. Siegel RL, Wagle NS, Cercek A, Smith RA, Jemal A. Colorectal cancer statistics, 2023. CA: A Cancer Journal for Clinicians. 2023;73(3):233-54.

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医療法人社団あんず会 本田クリニック

副院長 本田寛和

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