ピロリ菌胃
ピロリ菌の疫学:感染の背景や除菌後に再感染するのか?
ヘリコバクター・ピロリ菌は胃の中に住み着く菌で、胃がんの明確な危険因子であることは以前の記事で紹介しました。タバコと肺がんの関係のように、早い(若い)段階でピロリ菌の感染の有無がわかれば、より高い除菌治療のメリットを享受できます。ピロリ菌ですが、原則無菌環境である胃のなかでどのように生き延びているのでしょうか?またどのような環境で感染するのでしょうか?
目次
ピロリ菌が胃の中で住み続けることができる理由は?
皆さんがご存知のように胃の役割は食べ物の消化です。そのために胃の粘膜から胃酸が分泌されます。そのため胃内のpHは1~2と非常に強い酸性環境にあります。そのため胃内は原則として無菌環境であると言われております。ではそのような過酷な環境でピロリ菌はどのように感染しているのでしょうか?それはピロリ菌がウレアーゼという酵素を分泌し、胃内腔の尿素をアンモニアに加水分解し胃酸を中和することで保護膜を形成し、胃粘液層での活動が可能になりました。この酵素の役割はピロリ菌の感染診断方法である迅速ウレアーゼ試験でも使用されています。
ピロリ菌に感染するメカニズム
歴史
ピロリ菌の歴史は古く、研究では58,000年前に人類がアフリカから移住して以降人類にピロリ菌が広まったと考えられています。推計では世界人口の半分に感染しているのではとされております。特に途上国では小児の大半が10歳までに感染し、有病割合は50歳までに80%以上に達するとされています。
ピロリ菌感染のリスク因子
ピロリ菌に感染するリスクとしては社会経済的状況(socioeconomic status)や生後早期の生活環境に関連していると言われています。特に住宅の密集度や過密状況、兄弟の人数、ベッドの共有や上下水道の未整備(井戸の使用)などの要因がピロリ菌感染との高い関連性があるとされています。
日本の感染状況としては経済発展とともに住環境が改善し徐々にピロリ菌感染の有病割合は徐々に低下しています。年代別に見ると1950年以前に生まれた成人の70~80%、1950~1960年生まれの45%、1960~1970年生まれの25%が感染しているとされ、低下傾向が顕著です。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌の感染する経路の詳細は不明ですが、人から人に感染する場合は糞便から経口感染する、または口-口での感染が考えられます。また飼育されている霊長類やペットの猫からもピロリ菌が分離された報告もあり、動物からの感染も考えられています。そしてピロリ菌は水中でも数日間生存するとされており、水が感染経路の供給源となっている可能性も高いと言われております。アフリカでは定期的に川や小川で泳いだり飲んだりするため、5歳までにほぼ全員がピロリ菌に感染すると言われております。日本でも井戸水の使用でピロリ菌が家庭内で広がっていると言われております。親にピロリ菌感染があれば子供が感染している可能性は十分考えられます。
ピロリ菌の除菌治療後の再感染について
ピロリ菌の除菌治療後の再感染は非常に稀とされています。年間の再感染率は2%未満と考えられています。再感染した場合、ほとんどの場合、元の菌株の再増殖であると言われています。
メッセージ
ピロリ菌は胃がんの明確な危険因子です。タバコを早く禁煙できれば肺がんのリスクが下がるように、ピロリ菌の除菌も若い方が効果が高いです。がん検診の開始年齢になるまでに、一度ピロリ菌感染の検査を受けることをお勧めします。わからないことがあれば何でもご相談ください。
医療法人社団あんず会 本田クリニック
副院長 本田寛和