一般診療予防接種悪性腫瘍
ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン:子宮頸がんワクチンについて
子宮頸がんは通称”マザーキラー”と呼ばれ、20歳代から30歳代にかけての出産時期の女性に罹患率が高く、今でも多くの女性が子宮頸がんと診断され約3,000人が1年間に亡くなっています(2020年)。子宮頸がんはワクチンで予防できる癌の一つです。しかし、日本は2013年に厚生労働省が積極的な接種推奨を中断し、さらに報道も加担することで子宮頸がんワクチン事業がほぼ完全にストップしました。一方世界では日本のワクチン事業がストップしている間にワクチンが普及し、近い将来子宮頸がんの撲滅も視野に入っている国もあります。公衆衛生を学ぶ医師としてこの子宮頸がん撲滅は喫緊の課題です。今現状のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(通称:子宮頸がんワクチン)について考えてみたいと思います。
HPVワクチンは安全なのか?
結論としてHPVワクチンは安全なワクチンです。かつて日本ではHPVワクチンの接種後に手足の痺れや麻痺、疼痛などワクチンとの因果関係が不明な症状がメディアでクローズアップされ接種事業の中断につながりました。その後日本を含む世界中でワクチンの有害事象や副反応の研究が進み、極めて安全性の高いワクチンであることが認められました。2021年にアメリカでは1億3,000万回以上投与されており、副作用としては通常のワクチンや注射でもある失神(迷走神経反射)やアレルギー反応くらいでした。死亡や神経学的な合併症は認められませんでした。
なぜワクチンが有効なのか?
子宮頸がんの原因はほぼ全てヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因であると言われています。HPVワクチンの接種で子宮頸がんの前がん病変の96%以上が予防できることが明らかになりました。また接種する人口が増えればherd immunity(群免疫)で、集団で感染が守られる状態が維持でき更なる感染の広がりが予防できます。さらにHPVは子宮頸がんだけでなく膣がん、陰茎がん、肛門がんや喉頭咽頭部がんを起こすことも知られています。そのため女性だけでなく、男性(男児)への接種も非常に効果があります。
HPVには200種類以上のサブタイプがあり、発がん性があるのはそのうち約12種類とされています。特にHPV16は一番発がんリスクが高いタイプであり、HPV18が続きます。このHPV16と18で子宮頸がんの70%を占めます。2006年に発売された4価ワクチンはHPV6,11,16, 18に対応していました。2014年からは9価ワクチンが発売され、日本でも2023年からは9価ワクチン(シルガード®9)が公費接種で使用可能になりました。
HPVのワクチンの接種はいつ?
日本では小学校6年生から高校1年生の女性が接種の対象です。さらに接種の中断によりワクチンを受けることのできなかった平成9年から平成18年(1997年4月2日から2007年4月1日)生まれの女性についてはキャッチアップ接種が公費で可能です。キャッチアップ摂取は26歳までに受けることが推奨され、特に性活動が始まる前の摂取が理想的です。またアメリカの保険機関であるFDAは26~45歳までの9価格ワクチンも推奨しております。現在の感染していない他のHPVのタイプの予防になるためです。
接種回数は15歳未満で2回(2回目は6ヶ月後)、15歳以上では3回(0, 2, 6ヶ月)での接種スケジュールになります。ワクチンの有効期間は長く、実は1回の接種でも効果はあります。
メッセージ
HPVワクチンは安全なワクチンです。未来の子宮頸がん撲滅のためにも積極的にワクチンを受けてください。また男性もいつの日か公費接種が実現できるようになって欲しいと思っております。
参考文献
Markowitz LE, Unger ER. Human Papillomavirus Vaccination. N Engl J Med 2023;388:1790-1798.
https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kodomomirai/1/10/5009.html [2024.03.08]
医療法人社団あんず会 本田クリニック
副院長 本田寛和